平林久和氏のことはよくわからないけど擁護していいよね
こんな記事が増田に出ていました。片側から見た世界というのは第三者から見た世界とは大きく違うのだなあと思いました。
平林氏をdisる理由として次のようなエピソードが書かれています。
2006年頃、アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)というパチスロ会社の子会社で管理職をしていた。アルゼはその頃ゲーム開発から手を引くことを決め、ゲーム開発部署の社員が集められ、赤司(後述)を伴って平林氏から話があった。この話が無茶苦茶なものだった。
・PS3の売り上げが低調だ。ゲーム業界はもう駄目だ。
・かといってパチンコ業界もこれから縮小するといわれている。新しいことをしなければならない。
・例えばARMだ。これで携帯電話は飛躍的に処理能力が増える。そこに向けてコンテンツを作る。
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ARMというのは携帯機向けのCPUの設計図なのだが、調べてみるとゲームボーイアドバンスなどにも使われており、別段新しいものではない。しかしその場では誰もARMなんて知らないので、黙って聞くしかない(知ってる人もいたかもしれないが)。ゲーム開発を止めたアルゼが、ARM向けのコンテンツ(何なのかよくわからないが)を開発するとも考えにくい。
- ほとんどの人は知っている通りARMはCPUコアの名称であり英ARM社がアーキテクチャからIPデザインまで行っているやつです。
- そして各社がそれのライセンスをARM社から得て携帯電話向けCPUを作っていたんだけど、2003年頃からそのARMの性能向上が加速してきたところでした。
- 2006年頃と書かれているけど、PS3(2006年11月発売)の売上が低調ということから、この話は2007年のことなのかなあ? でもプロジェクトシルフィードの発売直後だったらやっぱり2006年頃なのかな。なんにせよCortexファミリーが発表されて携帯電話も今後CPU性能がどんどんあがってくぜ、というのが既定路線になったのがこの頃だったと思う。
だから平井氏の話したかったことは「ARM向けのコンテンツを作る」ではなく「携帯電話がARMによって飛躍的に処理能力が増える。だから携帯電話向けのコンテンツを作らないといけない」だったはず。
ちょうどその頃の携帯電話ににはそろそろCortex-A8というARMコアを使ったCPUが来年か再来年に出てきそう、みたいな感じになってきていました。僕の感覚では、CPUの処理性能としてはCortex-A8を使った携帯電話向けCPUはゲームキューブと同じくらいの性能で、その次のA9を使ったものはWiiより速くなっていただろうと思います。まあゲーム機はCPUの処理性能だけがすべてではなくて、携帯電話はいろいろなしがらみがあって性能をフルに発揮できないんだけど、それでも携帯電話の性能が急激に上がってライトなゲームは携帯電話でいいやってなってる今から見れば彼らは当然のことを言っていただけです。
(僕は携帯電話業界にいたので当然そうなるだろうと2004年くらいから思っていて、当時ゲームとかに使われてたPowerPCよりARMのほうが将来性は確実にあると思っていたけど、まあそのときはまだARMに高速なプロセッサが発表されてなくてPowerPCのほうが速かったからなかなか通じなかったです)
◎(ARMは大したことがないという意見に対して)「他の人にこの話をすると、みんな『凄いですね』と言うんだ。大したことがないと言うのはお前だけだ!」 これは多数論証という詭弁。「みんな」を持ち出さないと説得できない時点で情けない。また、この「みんな」はおそらくお世辞だ。
これは、Cortex-A9の発表(アーム社、ARMv7アーキテクチャのマルチコア「Cortex-A9」を発表 - EE Times Japan )を見た上で大したことがない、と言っているなら、まあそれなりに傾聴しないといけない意見かもしれないのだけど、もしそのときに携帯電話に使われていたARMプロセッサの性能を測って、あるいはその頃のPDAの性能ベンチマークなどを見てそのように言っていたのであればそれはダメだろうと思います。3年以上先の将来の話をしているんだから。
だってA9をマルチコアにしたものが携帯電話に載ったら8000DMIPSだぞ。PS3のCPUは10240DMIPSだぞ。そんな携帯電話が出てくるかもしれないって時点でだいたいビビるでしょ。MP4なんて携帯電話には消費電力の関係でしばらく載らないぞとか、GPUはどうせ遅いんじゃないの? みたいな疑問は当然出てくるんですが。
「ゲーム業界はもうダメだ」というのはPS2の頃のようにたくさんタイトルを作れば泡沫のタイトルでも少しは売れておこぼれに与れるような時代ではなくなるということが言いたかったのではないかなあ。もう開発体制を維持することができない、だから少人数開発でモバイルにチャレンジするか、やめるかどっちかしかないと考えて、(少なくとも当時のゲーム開発については)やめるほうを選びました、ということのように思われます。
そんなわけで当該記事に書かれていた平井氏の話については、書かれてきたことが全部本当だったとしても割と筋が通っていてあまり「困った人」という感じではないです。
後藤氏はちょっと発言はいろいろヤバくて確かに「困った人」だなと思ってしまいました。でもこれはちょっと妄想がひどくないですか?
・『プロジェクト シルフィード』は『ステラアサルト』の焼き直しなのだが、開発中は「ステラ~」の「ス」の字にも言及しなかった。代わりに全然似てない「エースコンバット」の話ばかりしていた。つまり『ステラアサルト』の焼き直しということを隠すためのミスディレクション(注意そらし)だった。
ステラアサルトもプロジェクトシルフィードも知らない人がゲーム画面見たらエースコンバットと同じタイプのゲームだと思うし、ステラアサルトなんてみんな知らないか忘れてるかだから当然エースコンバットと比べられることになると思うんだ。そりゃエースコンバットの話ばかりするのは当然じゃないでしょうか。
もしくは、この「エースコンバットの話ばかりしていた」というのがもしさらに上層部への説明だったとすれば、そりゃしょうがないよとしか言いようがないです。だってステラアサルトみたいな売れなかったゲームをもとにしますっていうとプロジェクトの将来性をめちゃくちゃ怪しまれて「エースコンバットみたいにしろ」ってどうせ言われるじゃないですか。だからそのミスディレクションは全然悪いことではなくプロデューサー/ディレクターとして当然のことをしただけのように感じます。
(結果的に全然売れなくて「隠れた名作」と言われるところまでステラアサルトと同じだったところ、何かの因果のようなものを感じないこともないです)