Windows Mobileがしょぼ過ぎて先行き真っ暗だったときのことを書く

当時を知っている僕からするとMicrosoftスマートフォンOSの覇権を握れなかったのは当時のWindows Mobileのスペックがおかしかったからというのと、いろいろタイミングが悪かったからだ。

 

 

ビルゲイツ氏が

「過去最大の過ちは、私が関与した何らかの経営ミスによって、Microsoftが現在のAndroid、つまり、Appleを除くスマートフォンの標準プラットフォームになれなかったことだ。」

という発言をして話題になっていた。

japan.cnet.com

 

2000年代を通して、僕は携帯電話端末の開発に関わっていたので。2002年代のモバイル機器向けWindowsであるWindows CE→Pocket PC→Windows Mobileの流れを見て、2年に1回くらいは実際に端末を買って使ったりしていた。2009年頃までのWindows Mobile(Windows Mobile 6.5まで)は致命的にダメなところがあった。

 

それは当時のWindows CEカーネル(5.Xまで)の下記の仕様だった。

・1プロセスが扱えるメモリが32MBまで

・プロセスの最大数が32個

しかも、これらがいつ解消されるかのロードマップが全く示されていなかった。

 

当時のi-modeの携帯電話端末はSymbianLinuxベースで開発されていて、その端末たちですらRAMを128MB以上積んでいて、最大使用量が32MBを超えるプロセスがいくつかあった。そしてそれらの端末で動いているプロセスの数は100近くあった。それと比べるとこの32MB/32個制限がいかに酷いスペックかがわかると思う。当時Webがリッチ化してきていて、JavaScriptCSSをバリバリ使うWebページを表示しようとすると32MB以上のRAMが当然のように要求された。それをこのスペックのOSで表示するためには簡易的な仕様とせざるを得ない。必然的にPocket Internet Explorerは残念なブラウザとなってしまったし、そういう仕様に制限してさえ、大きなWebページを表示しようとするとRAM不足で突然終了することが避けられなかった(はっきりしていないけど、Windows Mobileでアプリが突然終了することが多かったのはほとんどがメモリ不足が原因だったんだと思う)。

 

なので、そのCEカーネルの仕様を早急になんとかする必要があったのだが、問題が解消されたCEカーネル6.0がリリースされたのは2006年末だった。

カーネル6.0は「6.0ではプロセス数制限は最大32000個までに拡張され、各プロセスの仮想アドレス空間は2GBまでに広げられる」と説明されていたが、それに載せ替えるためにはソフトウェアの互換性を全部捨てる必要があった。Windows Mobileカーネル以外の部分をCEカーネル6.0に対応するにも開発期間が必要だし、どのようにアプリをマイグレーションしていけばいいかの戦略を立てづらかった。結局Windows Mobile 7は、それまでの全部の過去資産を捨てて全面刷新となったが、世の中に出たのは2010年だった。大きなOSの初期バージョンは「設計はいいが足りていない機能がたくさんある」というのが普通なのだけど、iPhoneが2007年に、Androidが2008年に出て、足りない機能を追加して使えるようになってきたところで、初物が出てきても、「センスはいいけどいろいろ機能は足りないね」という評価を得るにとどまってしまった。

 

 だから個人的には6.5までのWindows Mobileは「カーネルがダメなせいで、そもそも使い物にならない」であった。Pocket IEがしょぼすぎてだめだとか、すぐ落ちるとか、ユーザインタフェースが悪すぎるだとか、いろいろ言われてたけど、根本原因はカーネルがだめすぎるところにあって、あのカーネルではアプリやUIをいくら工夫しようにも限度があったのだ。工夫する気にもなれなかったと思うけど。

 

 

いろいろ間の悪いことに2005~2006年ごろはちょうどDRAMの価格が高かったころにハマっていて、将来RAMが劇的に安くなるなどの予測も立てにくかったんじゃないかと思う。そこからiPhoneが発表されてしばらくでDRAMの価格は1/3くらいになり、携帯電話にもアホみたいにRAMを積むことが可能になった。DRAMタイミング的にも運が悪かった。

 

割とショックだったのは、そんな中で日本のケータイメーカーが「スマホの波に乗り遅れたくない」などといいつつ2006年から2008年にかけてOSをWindowsにするかAndroidにするかの検討に時間をかけていて、しかも並行して開発リソースを集めているという噂が流れてきたことだ。それが本当なら日本のケータイメーカーは技術的な知見か、必要な情報を収集する能力が致命的に足りなかったのだと思う。常識的に考えれば(もしWindows Mobile 7の情報がないなら)5秒でAndroidしかないという結論が出る話だった(だってWebブラウザが満足に動かないOSなんだぜ? 選ぶ理由はないだろ)。もしWindows Mobile 7について何か情報があったのならそれがリリースされてからの開発になるのでリソースを集める理由がなかった。

「2000万円足りない」とかじゃなくてもっと伝えなきゃいけないことあるだろ

2000万円足りない話は割と変だと思っていた。元ネタの「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」PDFを見たところ出てくる数字は下記のようなものだったからだ。

  • いまの老人たちの平均収入は月21万円弱であるが、平均支出は26万円強である。月5万円強足りていないので定年から30年過ごすとなると2000万円を貯金から取り崩して生活していることになる
  • いまの老人たちの退職金の平均は2000万円であるが、これは将来減っていくことが推測される

 

これだけだ。これから、「2000万円足りない!!」と騒ぎ始めた人たちがいるという話だとすると、「なんだそれは…」という感想にしかならないだろう。

 

なぜなら2000万円の貯金を取り崩しているのはいまの老人たちであって、なぜいまの老人たちがそうしているかというと、貯金ががあるからだからだ。

考えてもみてくれ。

いま65歳で、貯金が2000万以上あって、子育ても終わっていて、そして死ぬまで月20万年金が入ってくる。貯金を使わないで節約するモチベーションがどこにあるというのか。使うだろ。95歳で死ぬと考えて、30年で使い切る計画的なプランを立てて。報告書ではその後になにやらいろいろ資産形成が必要であるとかなんとか書いてあったが、そんなのはもう屁理屈みたいなもので、正直どうでもいいんだ。そして2000万足りないってのも誤読であって、いま、老人は平均では65歳で2000万の余剰資産があって、それを使っているというだけなのだ。

 

将来の年金の支給額の変化について具体的な数字が書いてあるのかと思いきや報告書には何も書かれていないので、肩透かしを食らった感じで、だから極東ブログの下記の記事を見たときは、そりゃまあそうだよねと思ったのだ。

finalvent.cocolog-nifty.com

 

 でも報告書が出てきた元の「市場ワーキンググループ」の議事録を見るともっと突っ込んだ話があって、あの報告書だけを読んでいたら片手落ちだ、という指摘があった。次の記事だ。

 

mechpencil.hatenablog.com

 

ワーキンググループの議事録に委員から下記のような発言があったことが記されていると書かれていた。

 

さらに、この次のページを見ると、24ページには、今の高齢者の標準的な収入・支出状況が出ていますけれども、今のマクロ経済スライドを受けると社会保障給付の19万円は、おそらく15万円ぐらいまで団塊ジュニア世代から先は下がっていくだろう。

それから、非消費支出の2.8万円は、昨年5月の経済財政諮問会議の見通しだと、これが1.3倍、1.4倍ぐらいに上がってくるとなると、月々の赤字は5.5万円ではなくて、団塊ジュニアから先の世代は10万円ぐらいになってくるのではないか。しかも、それが長寿により長い期間続くということだから、早目に資産形成に入っていかなければいけないことを国民、特に若い世代に伝えるようにしなければいけないと思います。

 

 つまり下記のような話である。

  • いまの老人たちは19万円年金もらえてるけど、君らは15万円しかもらえないぞ
  • お前らが老人になったときには、老人でも払わないといけない税金や社会保険料がいまの1.5倍くらい、月4.2万円くらいになるので、その分ちゃんと払えよ
  • だったら月々の赤字は10万円くらいになるってことだから、30年で3600万。それだけ老後のために貯めておかないと老後暮らせないぜ

 

2000万円貯蓄しろとかいう話より、断然ひどい話ではないだろうか。特に15万円しか年金がないのに社会保険料と税金を4万円払うところ。

月15万円の収入があれば年収180万円であり、「年収150万円で自由に生きていく」ことができる人たちなら暮らしていけるはずであった。しかし社会保険料と税金でそこから年間48万円取られるとなると話は変わってくる。なぜメディアはこれをもっと大々的に報道しないのだろうか。

いつからか、はてなブログがとても書きづらくなった

5月のいつごろからか、はてなブログを書きづらくなっていた。

僕はいろいろな事情によりいろいろなブラウザを使っているのだが、Firefoxを使っているときに、このブログを書くことが実質的にできなくなったかと思うほどだったのだ。

 

・なぜか、「みたまま」のブログ編集画面の本文のテキストエリアのテキストの色が#FFFに指定されるようになってしまった。

・「HTML編集」を選んだとき、テキストエリアの大きさが0なのかわからないけどテキストエリアが全く何も表示されない(タイトルも本文も表示されない)。

・「見たまま」の画面で「公開」ボタンが表示されない (もちろん下書き保存もできない)

 

 

本文の背景も#FFFだから、実質本文が見えない。最初は何が起こったのかわからず、「テキストエリアをクリックしてもキャレットが出てこないし、キーボードを打っても何も入力されねえ。。入力できなくなった」って思ったのだけど、何かキーボードから入力して、マウスで選択すると選択した部分だけが反転表示されて見えたので、「ああ、実際には入力されているんだけど目に見えないだけだ」ということがわかった。

 

f:id:smileattribute:20190609022238p:plain

本文の入力エリアをインスペクタで見たところ

本文のtextareaをインスペクタで確認したところ、admin.cssというやつでcolor:#FFFが指定されており、「あー、こりゃ見えないわ」ということであった。何が原因でこのようなことになっているのかはわからん。僕の環境がおかしいのかもしれないし、はてなFirefoxなんて知らん、Chrome使えばいいだろ、と思っているのかもしれない。

 

そんなわけでどう更新していいかがわからない日々を送っていたのだけど、さっき、適当な内容を打ち込んでからHTML編集の画面で下書き保存し、それを管理画面から呼び出すと、まともな編集画面が出現することがわかった。なんだこれ。つまり、ブログが表示されている画面から編集画面に写るとNGという感じである。ブログのデザインにLifeってやつを選んでいるからかもしれない。僕にとっては割と致命的な現象だったが他の人から声が上がっていないということもあるし、正直よくわからないので真面目に原因を調べる気にはあまりなれない。

アクセル踏み間違い事故(いわゆるプリウスロケット)に見るハインリッヒの法則

製造業で働いたことがある人ならハインリッヒの法則について聞いたことがあるだろう。ハインリッヒの法則という名前を憶えていない人でもいわゆるヒヤリハットは聞いたことがあるはずだ。

 

 ハインリッヒの法則(ハインリッヒのほうそく、Heinrich's law)は、労働災害における経験則の一つである。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの。

 

ハインリッヒの法則 - Wikipedia

 

ところでこの大型連休の前後にアクセル踏み間違いが原因と思われる死亡事故の報道があった。

これにこの法則をあてはめて考えると、たとえば死亡事故や重傷を負うような事故は重大事故で、重傷者が出ないまでもコンビニにちょっと突っ込んだり追突されたりするというのが軽微な事故という感じだろうか。ここで最近の重大事故の頻度がたまたま日本全体で気が緩んでいたとかではなく、1ヵ月に1回くらいの頻度だというのであれば、アクセル踏み間違いによる軽微な事故は実は毎日のように起こっているということになるのだ。

だから、誰かが乗っている車は、いつ急発進してきてもおかしくないというような意識で生きることが大事のような気がしていた。

 

 

そんな中、「踏み間違い事故の発生件数が多いのは若者と老人であるが、踏み間違いによる死亡事故の発生件数は圧倒的に高齢者に偏っている」という記事を見かけて、その数字に少しびっくりした。

 

【踏み間違いによる事故の発生件数(2015年)】
・16~24歳 1080件
・25~29歳 513件

   :

・60~64歳 346件
・65~74歳 1001件
・75歳以上 1032件
・合計    5830件

 

【踏み間違いによる死亡事故の発生件数(2015年)】
・16~24歳 0件
・25~29歳 1件

   :
・60~64歳 2件
・65~74歳 16件
・75歳以上 34件
・合計   58件 

 

踏み間違い事故が一番多いのは若年層、だが死亡事故につながる割合は高齢層が突出! データから読める意外な真相とは? | clicccar.com(クリッカー)

 

ここから、踏み間違いによる、事故の件数:死亡事故の件数 の比率を出してみると、
25~64歳までを対象にした場合、2172:8 = 約340: 1 であり、これはいかにも最初に引用したハインリッヒの法則の 300:30:1に極めて近い数字になっているのだ。ハインリッヒの法則すごい。
(ハインリッヒの法則における300は無傷であった場合なので、車の場合には対物事故などが相当すると思う)

しかし65~74歳では1001:16 = 62:1 、そして75歳以上では1032:34 = 30:1の比率となってしまう。

 

 

この一つのデータから一般に拡張するのは雑だとは思うが、おそらく

  • ハインリッヒの法則の数字は高齢者にあてはめるときは修正しなければいけない
  • それも2倍とかではなく5倍とか10倍のオーダーで

ということだろう。

おりしも政府が最近
「できれば元気な人は70歳まで働き続けてほしい、いや、そうしないと日本が破綻するぞ」
という宣言を出したところであり、工場などでの65歳以上の雇用は急増するはずである。これまで300:30:1として安全衛生の教育を行ってきた現場の意識改革が必要となる可能性が高まっていると思う。

トロッコ問題

ロッコ問題が最近Twitter等で話題になっていた

トロッコ問題 - Wikipedia

 

Wikipediaには”単純に「5人を助ける為に他の1人を殺してもよいか」という問題である”と書かれているのだが、

しかし僕が割とこの日本に住んでて問題だと思うのは、下記のようなパターンが多すぎるということである

・「分岐先に他の1人が居る」ことを知らせずに「ほっておくと5人が死ぬ」→「助けないといけない」だけを喧伝し、大衆の支持を取り付け、1人を見殺しにしたあげく、5人を助けたことだけをアピールする

・「分岐先に5人が居る」ことを知らせずに1人のことだけを訴えて5人を見殺しにする

 

 

とはいえ最初からどういう分岐をたどると未来がどうなるかということが、全部がわかっていることはあまりないのだけど。

2018年度、わりとダメな感じだった

2018年度が終わった感じですが。

 

なんでこんなこと(ちょっと考えただけでもダメだとわかるようなこと)をまじめに検討したり実行したりしてしまうんだろうって思うことが例年に増して多かった1年だった。

 

  • ブロッキング法制化
    漫画村を知らなかったし使ったこともなかったのでよくわからなかった。実際のところ電子書籍に移行して解決していきたいはず。しかし最大のプラットフォームがAmazon Kindle外資に流通代を払わないと書籍を庶民に届けることができないという悲しい事態となってしまっているのは何が悪くて今後どうしていくといいんだろうか、というところを偉い人たちの意識をあわせてほしいと思ったりした。
  • 軽減税率とかカード支払いポイントとか
    これはないだろ。軽減税率1兆円減収するとのことで国民ひとりあたり年間8000円くらい。それなら一人あたり年間8000円を給付するほうが断然よい。2%が8000円になるということは年間40万円以上の食料品を買っているということ。3人家族だと120万円。一ヶ月10万円。そんなに買うのだろうか。要するに高級食材を買う人だけが得をする制度。店側の手間も増えるし誰も嬉しくない。カードについても同様。
  • サマータイム
    とりあえずなくなったからよかったけどさ…
    「OECD35ヶ国中31ヶ国で導入されている。導入していないのは日本と韓国とアイスランドのような国だけだ」
    みたいな意見が導入賛成派には多かったけど、EUサマータイムなくなることが決まったので、
    「昔はOECD35ヶ国中31ヶ国で導入されていたけど、2021年からは35ヶ国中10ヶ国だけになっちゃう制度です」
    という話だよね。日本導入決定してなくて本当に良かったよ。
  • Coinhive事件/無限アラート事件
  • 幼児教育無償化
    「保育園落ちた日本死ね」が話題になったんじゃないのか? どうしてこの状況で保育園入園の競争倍率をさらに増やすようなことを平気でやってくるんだろうか。本当に公明党の連中は僕らを殺そうとしてきているとしか感じられないし、僕らが「日本死ね」って言うのも当然だろう。
    この無償化の影響で認可外幼稚園で閉園になるものも出てきた。

    川崎市内の認可外“幼稚園“が破産と閉園を通告 A.L.C.貝塚学院。「この先どうすれば…」保護者に動揺広がる | ハフポスト

  • 著作権法の改正案(スクショ禁止になるやつ)
    これは詳しく追ってないんだけど、結局どういう影響があるか、推進側はちゃんとわからないまま議論が進んでいたようにも見えました。

日本としてそういう間抜けな事案がいっぱいあったのに負けず劣らず、僕の仕事でも間抜けな仕様やプロセス改善案(という名前のプロセス改悪)がいっぱい降ってきて泣きそうになっていました。Xを導入したときにメリットだけをアピールするんじゃなくて、そのときにマイナスになることは何か、デメリットをちょっとくらいは考えて、トータルでプラスになるかどうかを考えてほしいわけです。

お客様からはアジャイルがやりたいんだ、ABテストしたいんだ、みたいに言われるのだけど、実ユースケースに近いかたちで使ってもらって効果を測定したいというわけではなく単に「この仕様を実装したらどういう見た目になるかが想像できないから試してみたい」みたいな低レベルな話なんじゃないかなあと疑い始めている昨今です。

苫小牧のCCSは見直さざるを得ないのでは

鳩山元首相が胆振地震に関して「CCSによる人災と呼ばざるを得ない」というツイートをしていたのを最初に見たときには「ははは。さすが宇宙人と呼ばれた人は言うことが突飛だな」などと思ったのであるが、実際のところCCSによって地震が誘発されているという疑いのある地域もあることを知り、そして苫小牧CCSに関する資料をいくつか読んだら少し印象が変わった。

 

 

苫小牧CCSで今行われている実証実験の目的はもちろん日本でCCSを実用化できるかどうかを確認するというところだと思うが、そのうちの一つに下記のようなことがあった。

地震に関連する不安を、収集したデータに基づいて払拭する
• 自然地震が起きても、貯留したCO2に影響が及ぶことはない
• CO2の圧入によって地震が起こることはない

 

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/c140725_10-j.pdf

 

つまり、CO2の圧入によって地震が起きることはないことを実証することも、苫小牧CCSの実証実験の目的のひとつであったのだが、しかし近くで地震が起きてしまった。関連性は当然疑われ、「 北海道胆振東部地震のCO2 貯留層への影響等に関する検討報告書」という文章で、2018年の11月に追加調査の結果が報告されている。しかしそれを読むと上記の「不安を、収集したデータに基づいて払拭する」ことはできなさそうな内容であった。具体的には次のように書かれていた。

5.1.1. CO2圧入が貯留層・遮蔽層中で引き起こす地震の検討

2011年、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)により「CO2 圧入による地震誘発の可能性についての評価」が実施された。
 〜中略〜
本実証試験でのCO2 圧入により、断層のすべりが生じる(微小地震が発生する)可能性はないと考えられた。


5.1.2. CO2 圧入による震源断層への影響の検討

CO2 圧入による震源断層への影響を検討するため、圧入実績に基づく更新された貯留層モデルと圧入量(2018年7月時点)から、圧入終了時の想定累計圧入量(萌別層へ30万トン、滝ノ上層へ 750トン)による CO2 挙動シミュレーションを実施し、貯留層におけるCO2の分布範囲(図9)と貯留層の圧力上昇(図10)を新たに推定した。
 〜中略〜
さらに、圧入地点から30km以上離れた震源付近における CO2圧入による応力変化は、数値計算の結果として、1Pa(1cm2あたり約0.01gの力で押したのに等しい)程度となった。つまり、CO2 圧入による影響は、地球潮汐力により地殻に加わる応力変化である数kPa(数千 Pa)の 1/1,000 程度であり、地球潮汐力の影響に比べて無視できるものである。

したがって、今回の北海道胆振東部地震に CO2 圧入が関係しているとは考えられない。

http://www.japanccs.com/wp/wp-content/uploads/2018/11/report_201811217.pdf

 全体で22ページある文書のうち地震を誘発した可能性があるかどうかという点については上記の2つのサブセクションのみ、1ページに満たない報告となっており、そのうち5.1.1節は実験前の2011年における推定を記載しているだけなので、情報量はない(もしこれで誘発地震が起こる可能性があることがわかるなら、そもそも実証実験は開始されていないからだ)。

5.1.2節は今回の地震を受けて新たに検討されたことなのだが、「CO2 挙動シミュレーションを実施し」とあることから、ほとんどが実測データではなくシミュレーションからの推定になっている。「震源付近における CO2圧入による応力変化は、数値計算の結果として、1Pa(1cm2あたり約0.01gの力で押したのに等しい)程度となった。」とあることから、震源付近に対する影響はこの報告書ではシミュレーションでしかなく、実測値で新しいことがわかった感じがしない。一応、5.1.2節の冒頭にある「圧入実績に基づく更新された貯留層モデル」という部分のみが、この実証実験によって新たにわかったことが反映されていることが期待される部分なのだが、この貯留層モデルの更新によって、シミュレーション結果がどのように変化し、どれくらい正確になったかが、この文章からは全くわからなかった。

 

こんなことで「したがって、今回の北海道胆振東部地震に CO2 圧入が関係しているとは考えられない。」などと結論づけてしまっていいのか? 素人感覚で申し訳ないとは思うが多分ダメだ。

ただ、この文書では建前上どうしても関連性を否定せざるを得ないというのはわかるが、今後継続する実証実験において、何らかの追加のデータを取得するなどして不安を払拭できるようにする検討が必要だと思う。もし今年2月19日のCO2圧入再開が、それらがなく行われて、また地震が起こったとなれば今度こそ何らかの見直しを行う必要があるのではないだろうか。

 

 

ところで2018年2月に環境省から発行された「国内外の CCS Ready に関する取組状況等 について」には下記のような記述があった。

 なお、海防法においては、特定二酸化炭素を海底下廃棄する海域に関する基準として、「地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がない海域」及び「将来において地層の著しい変動が生ずるおそれが少ないと見込まれる海域」等が定めれられている。

 

https://www.env.go.jp/press/files/jp/104834.pdf

 

これが本当であれば、関連性はともかく苫小牧ではもうCCS実証実験は中止するしかないのではないかという気がする。

 

 

でもなー。自分がこのCCSプロジェクトの担当だったら、どうしていいかわからないだろうなとも思うんだよな。震源の場所も深さも割と離れてるのでいま分かっている理屈ではどう考えてもこのCCSと胆振地震とは関係がなく、単に運が悪かっただけのように思ってしまう。もうちょっと地震との関連をわかるような取り組みをしたいけどどうしていいのかわかんないし、もっとたくさん実験していくしかないのかもしれない。