苫小牧のCCSは見直さざるを得ないのでは

鳩山元首相が胆振地震に関して「CCSによる人災と呼ばざるを得ない」というツイートをしていたのを最初に見たときには「ははは。さすが宇宙人と呼ばれた人は言うことが突飛だな」などと思ったのであるが、実際のところCCSによって地震が誘発されているという疑いのある地域もあることを知り、そして苫小牧CCSに関する資料をいくつか読んだら少し印象が変わった。

 

 

苫小牧CCSで今行われている実証実験の目的はもちろん日本でCCSを実用化できるかどうかを確認するというところだと思うが、そのうちの一つに下記のようなことがあった。

地震に関連する不安を、収集したデータに基づいて払拭する
• 自然地震が起きても、貯留したCO2に影響が及ぶことはない
• CO2の圧入によって地震が起こることはない

 

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/c140725_10-j.pdf

 

つまり、CO2の圧入によって地震が起きることはないことを実証することも、苫小牧CCSの実証実験の目的のひとつであったのだが、しかし近くで地震が起きてしまった。関連性は当然疑われ、「 北海道胆振東部地震のCO2 貯留層への影響等に関する検討報告書」という文章で、2018年の11月に追加調査の結果が報告されている。しかしそれを読むと上記の「不安を、収集したデータに基づいて払拭する」ことはできなさそうな内容であった。具体的には次のように書かれていた。

5.1.1. CO2圧入が貯留層・遮蔽層中で引き起こす地震の検討

2011年、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)により「CO2 圧入による地震誘発の可能性についての評価」が実施された。
 〜中略〜
本実証試験でのCO2 圧入により、断層のすべりが生じる(微小地震が発生する)可能性はないと考えられた。


5.1.2. CO2 圧入による震源断層への影響の検討

CO2 圧入による震源断層への影響を検討するため、圧入実績に基づく更新された貯留層モデルと圧入量(2018年7月時点)から、圧入終了時の想定累計圧入量(萌別層へ30万トン、滝ノ上層へ 750トン)による CO2 挙動シミュレーションを実施し、貯留層におけるCO2の分布範囲(図9)と貯留層の圧力上昇(図10)を新たに推定した。
 〜中略〜
さらに、圧入地点から30km以上離れた震源付近における CO2圧入による応力変化は、数値計算の結果として、1Pa(1cm2あたり約0.01gの力で押したのに等しい)程度となった。つまり、CO2 圧入による影響は、地球潮汐力により地殻に加わる応力変化である数kPa(数千 Pa)の 1/1,000 程度であり、地球潮汐力の影響に比べて無視できるものである。

したがって、今回の北海道胆振東部地震に CO2 圧入が関係しているとは考えられない。

http://www.japanccs.com/wp/wp-content/uploads/2018/11/report_201811217.pdf

 全体で22ページある文書のうち地震を誘発した可能性があるかどうかという点については上記の2つのサブセクションのみ、1ページに満たない報告となっており、そのうち5.1.1節は実験前の2011年における推定を記載しているだけなので、情報量はない(もしこれで誘発地震が起こる可能性があることがわかるなら、そもそも実証実験は開始されていないからだ)。

5.1.2節は今回の地震を受けて新たに検討されたことなのだが、「CO2 挙動シミュレーションを実施し」とあることから、ほとんどが実測データではなくシミュレーションからの推定になっている。「震源付近における CO2圧入による応力変化は、数値計算の結果として、1Pa(1cm2あたり約0.01gの力で押したのに等しい)程度となった。」とあることから、震源付近に対する影響はこの報告書ではシミュレーションでしかなく、実測値で新しいことがわかった感じがしない。一応、5.1.2節の冒頭にある「圧入実績に基づく更新された貯留層モデル」という部分のみが、この実証実験によって新たにわかったことが反映されていることが期待される部分なのだが、この貯留層モデルの更新によって、シミュレーション結果がどのように変化し、どれくらい正確になったかが、この文章からは全くわからなかった。

 

こんなことで「したがって、今回の北海道胆振東部地震に CO2 圧入が関係しているとは考えられない。」などと結論づけてしまっていいのか? 素人感覚で申し訳ないとは思うが多分ダメだ。

ただ、この文書では建前上どうしても関連性を否定せざるを得ないというのはわかるが、今後継続する実証実験において、何らかの追加のデータを取得するなどして不安を払拭できるようにする検討が必要だと思う。もし今年2月19日のCO2圧入再開が、それらがなく行われて、また地震が起こったとなれば今度こそ何らかの見直しを行う必要があるのではないだろうか。

 

 

ところで2018年2月に環境省から発行された「国内外の CCS Ready に関する取組状況等 について」には下記のような記述があった。

 なお、海防法においては、特定二酸化炭素を海底下廃棄する海域に関する基準として、「地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がない海域」及び「将来において地層の著しい変動が生ずるおそれが少ないと見込まれる海域」等が定めれられている。

 

https://www.env.go.jp/press/files/jp/104834.pdf

 

これが本当であれば、関連性はともかく苫小牧ではもうCCS実証実験は中止するしかないのではないかという気がする。

 

 

でもなー。自分がこのCCSプロジェクトの担当だったら、どうしていいかわからないだろうなとも思うんだよな。震源の場所も深さも割と離れてるのでいま分かっている理屈ではどう考えてもこのCCSと胆振地震とは関係がなく、単に運が悪かっただけのように思ってしまう。もうちょっと地震との関連をわかるような取り組みをしたいけどどうしていいのかわかんないし、もっとたくさん実験していくしかないのかもしれない。