富裕層の増加と貧困率の増加

日本での一般的な富裕層の定義は、「保有する金融資産が1億円以上の世帯」である。

そして相対的貧困の定義は「世帯の所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のこと」とされている。2015年時点の日本の場合には世帯年収が172万円以下の場合には貧困層と言われる状況にある。

 

 

富裕層かどうかは、いま保持している資産というストックで決まるが、貧困かどうかはその年の収入という、フローで決まることになっている。だから「金融資産は1億円以上あるけど、働いてないから収入はないよ」という人は富裕層かつ貧困層という不思議な状態になる。

 

 

富裕層の6〜7割は60歳以上だという。僕が考えるにここ数年で富裕層が増えた理由は割と簡単で、「団塊の世代で定年退職して退職金を貰った人が多かったから」である。もちろん株価の上昇で資産額が跳ね上がった人たちも多いだろう。でもそれ以上に退職金が占めるファクターが大きくあったのではないか。彼らの世代は転職もなく無事にずっと同じ会社を勤め上げたような人たちも多く、退職と同時に2500万円以上もの退職金が給付され金融資産が増えた人も相当数居るはずだ。この退職金の存在を無視しているような議論に意味はないのだ。

 

 

わりと一般的な企業では60歳で定年退職になる。そこで退職金を貰って、でも年金が受給できるのは65歳以降であり、しばらく収入がない状態になる。これは、退職金を貰って、富裕層になったけど、貧困層にもなっちゃう、ということだ。こういう世帯はここ10年で大幅に増えているはずで、しかも日本特有の状況である。割と裕福な人が昭和の時代の普通に暮らしをして年齢を重ねるだけで、富裕層は増え、貧困率は上がってしまう状況だったのだ。そしてそれは特に問題視すべきことではなかったはずだ。これに対して何の考慮もせずに他の国との比較や過去との比較で、格差が広がっている、と結論づけて政策を決めていくのは、雑すぎると思う。

 

 

あとはもう単純な書き方になるけど下記のような感じである。

・「富裕層」「貧困層」という言葉の定義をちゃんと決めて議論しないと、「富裕層で、かつ貧困層」を利するだけになる。

・「富裕層に課税を」という目的で累進課税を強化しても、半数以上の富裕層には影響はない。なぜなら彼らはすでに年金生活だからだ。